建築新材料ー砂が構造体になるのか

2021年4月東京大学から砂を接着した建築材料の研究が発表されており、興味深かったので紹介したい。

研究内容

研究内容について、東京大学生産技術研究所のHPに記載されている概要は以下の通りである。

1、接着剤を使用せず、触媒を利用し砂を直接接着する
2、SiO2を主成分とする材料であれば適用可能な技術(形状によらない)
3、既存の技術と比較しエネルギー消費を削減できる

詳しくは東京大学生産技術研究所のプレスリリース記事で確認頂きたい。(こちらをクリックして下さい)

珪砂から製造した硬化体(左:珪砂(直径約0.1mm)、右:製造した硬化体) (出所:東大生研Webサイト)
ガラスビーズから製造した硬化体(左:ガラスビーズ(直径約0.1mm)、右:製造した硬化体)(出所:東大生研Webサイト)
ナミブ砂漠の砂から製造した硬化体(左:ナミブ砂漠の砂、右:製造した硬化体)(出所:東大生研Webサイト)
ニチレキ製の月の模擬砂(左)から製造した硬化体(右) (出所:東大生研Webサイト)

研究の背景としては、代表的な建築材料であるコンクリート材が抱える環境負荷への問題、材料枯渇への懸念への対応として低エネルギーかつ枯渇の心配がない材料の開発が求められていることにある。

何がすごいのか

この研究内容の画期的な点は、色々あるが個人的にここがすごい!と思ったところを紹介したい。
(あくまで材料としてコンクリートと比較した場合の話ではあるが)

1.材料の入手容易性
今回紹介されている研究では、Sioを主成分とする材料であれば形状・大きさによらず利用可能な点が素晴らしいと考える。コンクリートの場合、単純にセメント・砂・骨材を混ぜているように考えるかもしれないが、品質の良いコンクリートを製造するには適切な骨材の寸法・形状があり、使用する材に含まれる成分も大きな影響を与える。そのため、実際は良質な骨材・砂の入手は日本だけでなく世界的にも年々困難になっているという現実がある。また、セメントの主原料である石灰石の確保・品質維持も決して問題となっている。
もちろん、こうした問題に対して例えば再生骨材を利用するなどの対応もあるが、全面的な問題解決ではないだろう。

上記の問題に対して今回の研究では、形状・大きさに作用されないため使用材料の幅にほぼ制限がないと言える。国・地域に限らず利用できる技術となれば、非常に優れた技術と言えると考える。

2.触媒による接着

接着手法として所謂接着剤として利用される樹脂やセメントを用いるわけではなく、アルコールと触媒を利用して接着を行っている。結合としては、加熱・冷却を行うことで砂の化学結合を切断、再接合を行うことで硬化体を形成しているとのこと。また、利用するアルコール・触媒は再利用可能なため省エネルギー性にも優れた技術となっている。

接着手法として、樹脂系の接着剤やセメントを用いた場合、材料強度としてはどうしても接着材の耐久性に依存される。それに対して今回の化学結合による接合であれば、比較的高い耐久性が期待できる。

今後の課題は?

1.硬化体の強度
硬化体の強度としては、安定的に建築構造体に使用できるレベルとはなっていない。構造体としてコンクリートに代わる材料として普及させるのであれば、強度として36N/mm2は欲しいところと個人的には考える。

2.コスト
研究内容を見る限り、コスト面での優位不利は明確に述べられていないため、まだ分からないが今後普及を目指すのであれば、現在のコンクリートの値段と同等程度まで下がらないと難しいだろう。

3.現実的な利用法の確立
コンクリートと比較し、省エネルギー性・原材料の汎用性に優れている技術であるが、熱で硬化する過程を考えると、単純にはコンクリートのように現場で形状を形成・硬化することはむずかしいのではと考える。そうなると、まずはコンクリートブロックや、ALC、ECPの代替として普及させるのか、また違った利用をするのか、現実の現場施工を考慮した利用法の確立が必要かと考える。

まとめ

今回は、砂を硬化する新技術の紹介を行った。これまでのコンクリート材が抱える、環境負荷への問題、材料枯渇への回答の一つになる素晴らしい技術ではあるが、まだ実現化には超える必要のあるハードルはあるようだ。これからの動向に注目したい研究の1つである。

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