私のこれまでの働き方
私は10年程度施工管理の仕事をしている。10年程度の仕事の中で残業が無かった月は、入社して初めの研修期間1か月程度で、その後は残業が当たり前で、サービス残業・サービス出勤も普通のこととして働いてきた。もちろん、入社する前から建築業、特に施工管理の仕事は労働時間が長く、覚悟は出来ているのかと入社時の面接で聞かれていたし、ある程度分かっていたので入社後もそれ程ギャップがあったわけではない。
そもそも建築業界は他の業界比較し残業時間が多い業界とは思っているが、建築の中でも施工管理を仕事としている人は特に労働時間が長いのではないかと思う。
配属された現場にもよるが、私も実際の月残業時間は60~250時間になり、平均的には100~120時間の間になる。個人的な残業時間と生活の関係としては、下記のイメージを持っている。
月残業時間~45時間:仕事終わりの私生活も自由度が高くなんでも出来るため、最高!
月残業時間~80時間:平日はあまり自由が利かないが、休日はしっかり休めるため、問題なし
月残業時間~150時間:休日は週1になるため、体力的に少しキツイ時があるが、許容範囲
月残業時間200時間超:はっきり言って通常の働き方でないため、2か月程度ならいいが、半年以上続くような場合は体力的にも精神的にもキツイ
基本的には、上述した通り100時間程度の残業時間であるが、私が入社3年目ぐらいまではどれだけ残業しても勤務表には45時間以上つけてはダメとの暗黙のルールがあった。月残業時間が200時間を超えても、勤務表の残業時間がほとんど付けられなかった時は流石にかなりの不満を抱いた。(ちなみに、上司の若いころは21時間以内と表記するように言われていたと聞いている)
これまでは、長時間労働についてはあまり真剣に考えてこなかったが、最近会社での働き方改革の動きや、学生のリクルートや新入社員のメンターを行うようになって、色々と思うことを書いていきたい。
建築業界ー現状の労働環境
今の建築業界の働き方改革の動きを見る中で改めて、現状の建築業界の労働環境について調べてみた。
まず、労働時間だが厚生労働省の発表によると、建築業界は全産業平均と比べて300時間以上長時間労働となっている実態がある。それに対して、給与は近年は建築業全体は上昇傾向にあるものの技能者(生産労働者)については製造業と比較し低い水準となっている。
また、少し古いデータとなるが平成27年度実績によると年間出勤日は251.3日となっており、全産業(224.4日)と比較し1割程度多く、休日取得は建設工事全体では約65%の人が4週4休以下で働いている結果となっており厳しい労働環境であることが分かる。
ちなみに労働人口もあまり明るい話題は無い、建築業就業者は1997年のピーク時から減少の一途をたどっていて、2019年時点でピーク時から約27%減少している。また、年齢別の就業者数を見ると60歳以上が25%以上を占める一方若手入職者の数が不足しているためますます就業者の減少が進むことが予想される。
労働時間とはずれるが、発生している労働災害(死亡災害)についても、令和2年~平成29年の3年間で全業界の中で最多となっており、またその割合も頭一つ抜けている状況だ。(第三次産業は各業種合わせた合計となっている)
何となくは分かっていたが、調べれば調べるほど暗い気持ちになる情報が出てきて、こんな業界に若い人たちが魅力を見いだせるのか心配になる。もちろん、労働時間や給与だけが仕事の魅力を全て決める要因ではないが、昨今のブラック企業云々の話題を考えると仕事を選ぶ中で大きな要因となっていることは確かだろう。
建築業界での働き方改革の動き
こうした建築業界の状況を重く見て国としても、国土交通省より「建設業働き方改革加速化プログラム」が出されている。主な取組として下記3点を挙げている。
1、長時間労働の是正に関する取組
2、給与・社会保険に関する取組
3、生産性向上に関する取組
今回はこのうち「長時間労働の是正に関する取組」と「生産性向上に関する取組」を特に注目したい。
それぞれ簡単にまとめると、「長時間労働の是正に関する取組」は、週休2日の確保と長時間労働を避けるための適切な工期・コストの設定、「生産性向上に関する取組」は、積極的なICT活用、IOT・新技術活用による効率化、人材・資機材の効率的な配置計画と認識している。
労働時間の目標としては、2019年4月に施行された改正労働基準法の「時間外労働の上限規制」が目安になってくる。下図に改正前(左)と改正後(右)の規制を示すが、要約すると原則時間外労働時間を月45時間以内年間360時間以内にする必要があるとのことだ。
建築業全体としての働き方改革の取組としては、完全週休二日制・長時間労働の抑制を大きな目標としていることが分かるが、現状を考えると達成は非常に困難だと考える。次に、何が原因で長時間労働につながっているのか私なりに考えてみた。
ただ、次に移る前に建築業界の生産性向上についてG7を比較してみると興味深い結果が出ていたので紹介したい。日本生産本部の労働生産性の国際比較 2020によると、1995年~2018年の期間でG7の内建築業の労働生産性の平均上昇率がプラスの国は英国(0.6%)と日本(0.1%)のみで、米国(-1.0%)、ドイツ(0%)、フランス(-0.8%)、イタリア(-1.5%)、カナダ(-0.1%)の5か国は長期的なトレンドでは0またはマイナスとなっている。より短期の2010年~2018年の期間でみると、プラスとなっているのは日本(2.6%)、英国(0.9%)、カナダ(0.2%)の3か国で、そのほかの国は全てマイナスとなっている。ただし、日本で、2010年以降の上昇率が突出しているのは、2011 年以降の東日本大震災復興工事や、2020 年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックに伴う建設需要などを契機に需給が逼迫する状況が続いていることが原因にようだ。このように、米国や欧州など建築業で標準化やBIMなどの情報技術の積極導入が進んでいる国でも建築業では、生産性向上が長期停滞傾向にあるのは意外だった。
どうして長時間労働になるのか
どうして長時間労働になるのか下記3つにまとめてみた。
1、業界全体として長時間労働が常識化している
現場で働いている人は基本的に月残業時間は平気で80時間を超えてくるため、それが日常化しどんどん世間一般の間隔とずれが生じてくる。長時間労働が常態化してしまうと、それがおかしいという感覚がなくなり、別に無理して労働時間を減らそうとする努力を行わなくなる傾向があるだろう。
私自身も長時間労働が常態化していたため、会社から働き方改革で強制的に残業時間を減らすよう指示を受けて、ようやくこの考えがおかしなことだと改めて気づいたことがある。
会社全体として長時間労働が日常となっていれば、下手をすれば残業していないと何か心苦しいく感じたり、残業が美徳のように語られることがあり気を付けないといけないと感じている。
2、社員に対する仕事量が多すぎる
長時間労働となる理由で当たり前のことであるが、1人に割り当てられる仕事量が多すぎることがある。特に現場で仕事をしていると作成する書類の量は膨大になる。社内、発注者、設計者、諸官庁、近隣それぞれに対して様々な書類の提出が求められる。法律上や規準上必ず求められる書類だけでもかなりの数になるが、建設地・設計・発注者によっては+αの書類も必要となりかつ高いクオリティを求められるとなるとそれだけで長時間拘束されることとなる。
もちろん、現場をやっていれば書類作業だけでなく、様々な会議を行いかつ現場の巡回・管理を行う業務もある。日中はどうしてもそうした業務に追われるため、定時後に書類作業を開始するとなると気づいたら22時頃というのはざらにある。
そしたら、担当者を増やせばいいのではとの意見もあるが、人が増えるほど経費も掛かり現場利益と天秤にかけて…ということが多い。社員の給与が平均的に低くなってもいいのであれば、単純に人を増やすこともできるが中々難しいだろう。
3、不確定要素が多い
現場で仕事をしていると、天候や自然災害の予測できないことで工事が止まることが必ずある。また、十分な対策をしていても予期せぬところで安全や品質面での事故が発生することもあり中々予測していないことで工期の遅延が発生し、それに対応する形で長時間労働になることがある。
また、どうしても原設計からの設計変更は生じるものである。設計変更に対して、図面変更対応以外に、コストの算出、施工計画の変更、業者選定、工程見直し、追加許可申請等の都度発生する。さらに、設計変更が初期段階で終わればいいが、発注者・設計者によりある程度工事が進んでいる中で行われると変更対応の労力が膨大な量となる。契約約款上、本来工期延長の要求が出来るような場合、発注者・設計者側の様々な事情により予期していない工期圧縮を求められることがある。
まあ、そうした予想外の事態に対してどう対応するのかが現場での醍醐味の部分もあるため一概に不確定要素が悪いとは言わないが、あまりにも多発すると厳しい時がある。
どうすれば長時間労働を回避できるのか
次に、どのように長時間労働を回避できるのか少し極端な意見もあるが私なりに考えていることをまとめてみた。
1、業務の削減
結局はこれが一番重要だと考えている。私が仕事を始めてからIOTや新技術の活用で効率化は図られているが、正直それ以上に業務(特に書類作業)が年々増えていると感じる。それでは、どれだけ効率化を図ろうが結局残業時間を押さえることは出来ない。もし同じ物量の書類をこなす必要があるのだとすれば、倍の人数を掛ければいいのだが、上述した通り単純に人数を増やせるものではない。
ただし、改正労働基準法が目指す月残業時間を45時間に抑えることを本気で達成するのであれば、工事評定表に求められる書類のみ提出を求める、全ての都道府県・市町村で+αの書類を廃止し統一した書類・フォーマットを採用するなどドラスティックな対応をしない限りはまず無理だと考える。
2、業務の分業化
現在、日本では現場監督は品質・コスト・工程・安全・環境に関して管理を1人の人間がこなすよう求められているが、正直限界だと考えている。ゼネラリストを育てるのは諦め、各分野のスペシャリストを育てればいいのではないかと思う。そして現場運営をするには全てを理解した人材を育てる必要があるとの意見があると思うが、何も全員がそうなる必要はない。会社で選抜した人材のみ全ての管理を行えるように育て、それ以外の人材はそれぞれの分野に特化させた方針とすればよいのではないだろうか。現場運営を行う人材と特殊業務として長時間労働を是としてもよく、そうでない人材は労働時間を削減できる、その代わり給与形態はそれぞれ分けて考えるというのも一つの手と考える。
3、請負契約に基づいた仕事をする
正直これは日本社会全体の話に関わるため、上記の2番目よりさらに現実味がないかもしれない。
もちろん、全ての工事は契約に基づいた仕事をしている。ただ、契約上は発注者・請負人は同等の立場であるはずだが、私個人の考えはやはり日本では発注者また設計者の方が施工者より立場が上となるケースがほとんどだと考える。本当に契約約款に基づきドライな仕事が可能なのであれば、長時間労働の是正の1つの手となるかもしれないが、次の仕事へ繋げることなどを考えるとかなりハードル高いのではないかと思う。
実際私も、日本式のやり方で助かってきたことが多々あるため、難しい問題ではあるがもし本当に請負契約通りで全て仕事が進める社会になるのであれば現状と大きく変わる可能性はある。(ただし、それがまた新しい予想もしなかった問題を生み出す可能性はあるだろう)
まとめ
今回は、建築業界での労働環境について考えてみた。
正直今回の記事では解決案は出すことは出来ていないが、ただ私自身も現状の長時間労働が常態化している状態はやはり是正されるべきだと考えている。すぐには解決できる問題でもないし、業界全体としてどうしても苦しみながら解決の方法を模索している状態ではあるが、日本の建築業界を発達させていくため私も知恵を絞りながら仕事をしていきたいと改めて感じた。
皆さんの様々なアイデアをぜひ教えて頂きたい。
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